不動産投資をするうえで必ず知っておきたいキーワードのひとつが「減価償却」です。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、仕組みを理解して正しく活用できれば、節税やキャッシュフロー改善に大きく貢献します。
この記事では、初心者の方にもわかりやすく、減価償却の基礎知識から、具体的な計算方法、節税の仕組み、実践での活用例までを詳しく解説していきます。
第1章:減価償却とは?その基本的な意味と考え方
減価償却の定義
減価償却とは、「時間の経過や使用により価値が減少する資産について、その費用を耐用年数にわたって分割して計上する会計処理」です。
例えば、1,000万円で購入した建物は、10年経てば価値がゼロになるわけではありませんが、毎年少しずつ価値が目減りしていきます。
その価値の減少分を「経費」として計上するのが、減価償却です。
なぜ減価償却が必要なのか?
企業会計や税務の考え方では、建物などの高額な資産を購入した場合、その費用を一度に経費計上してしまうと、購入した年の利益が大きく減ってしまいます。
それを防ぎ、より正確に「費用対効果」を測るために、数年に分けて費用計上する仕組みが必要になります。それが「減価償却」です。
不動産投資における減価償却の役割
不動産投資では、物件購入時の「建物価格」が減価償却の対象になります。
土地は時間が経っても価値が減らないとみなされており、減価償却の対象にはなりません。
建物部分については、法定耐用年数に基づいて、毎年一定額または一定割合を経費として計上できます。
減価償却の活用で得られる3つのメリット
- 節税効果がある
減価償却費は実際の支出を伴わずに経費計上できるため、税負担を軽減する効果があります。 - キャッシュフロー改善
税金の支払いを抑えることで、手元に残るキャッシュが増え、再投資や借入返済に活用しやすくなります。 - 資産管理がしやすくなる
会計処理を通して資産の価値が明確になり、事業計画の見直しや売却判断にも役立ちます。
第2章:減価償却の対象と耐用年数の考え方
減価償却の対象となる資産とは?
不動産投資において、減価償却できる資産は主に以下のとおりです。
- 建物本体(鉄筋コンクリート造・木造など)
- 付属設備(エレベーター、給排水設備、照明など)
- 構築物(塀、舗装、外構など)
ただし、土地部分は減価償却の対象外です。
耐用年数の違いと税務上のルール
減価償却は「法定耐用年数」に基づいて計算されます。
例えば、木造住宅は22年、鉄骨造なら34年、鉄筋コンクリート造(RC)は47年といったように、構造ごとに定められています。
中古物件を購入した場合には、「残存耐用年数」または「簡便法(耐用年数×20%)」で計算されることもあります。
減価償却の2つの方法
- 定額法:毎年同じ額を償却する方法(現在の主流)
- 定率法:毎年一定の割合で償却する方法(過去によく使われていた)
平成28年の税制改正により、不動産に関しては基本的に「定額法」が適用されます。
第3章:減価償却の計算方法を具体的に解説

減価償却費の基本計算式
減価償却費の基本的な計算方法は以下のとおりです。
減価償却費 = 取得価額 × 償却率
あるいは、定額法であれば
減価償却費 = 取得価額 ÷ 耐用年数
取得価額とは、建物部分の価格+購入時の諸経費(登記費用や仲介手数料など)を含む金額です。
例:木造アパート(新築)のケース
- 購入価格:3,000万円
- 建物価格:1,800万円(土地は1,200万円)
- 法定耐用年数:22年(木造)
この場合の減価償却費(定額法)は以下のとおりです:
1,800万円 ÷ 22年 = 約81.8万円/年
この金額を毎年、経費として計上できます。
中古物件の場合の計算:耐用年数の短縮
中古物件を購入した場合、残りの耐用年数で償却するか、「簡便法」によって新たな耐用年数を設定する方法があります。
簡便法では、法定耐用年数に20%を掛けた年数が新たな耐用年数になります(小数点以下切り捨て)。
- 例:築25年の木造住宅 → 22年 × 0.2 = 4.4 → 4年
建物価格を4年で償却できるため、経費計上のスピードが早くなり、節税効果が非常に高くなります。
注意点:建物価格の内訳と配分
土地と建物の価格を分けて算出する必要がありますが、通常は固定資産税評価額の比率に基づいて按分します。
- 建物価格比率 = 建物の評価額 ÷ 評価額合計
- 土地価格比率 = 土地の評価額 ÷ 評価額合計
この割合を実勢価格に掛けることで、建物と土地の価格を算出します。
第4章:減価償却による節税の仕組みを理解しよう
実際に節税になる理由とは?
減価償却費は「実際にお金が出ていないのに、経費として計上できる」という特徴を持ちます。
これは、利益を圧縮する効果があり、結果的に課税所得を下げることができます。
たとえば以下のようなイメージです:
- 年間家賃収入:600万円
- 経費(管理費や修繕費など):200万円
- 減価償却費:100万円
この場合、課税所得は:
600万円 − 200万円 − 100万円 = 300万円
本来は400万円の所得に対して税金がかかるはずですが、減価償却費の分だけ課税所得が減り、結果として納税額が大幅に下がるのです。
減価償却によるキャッシュフローの改善
減価償却は「見かけの経費」ですので、実際の現金支出がありません。
つまり、税金を軽減できるだけでなく、手元に残るお金(キャッシュフロー)を最大化できるメリットがあります。
- 税引後利益が増える
- 返済に回す資金が増える
- 再投資や修繕積立にも活用できる
長期的な資産形成をするうえでも、このキャッシュフロー改善は非常に重要です。
減価償却のデメリットと注意点
1. 将来の帳簿上の利益が増える
減価償却は一度使い切ると、建物価格を償却し終えた後は経費計上できる金額が減少します。
その結果、帳簿上の利益が増え、税金が多く発生してしまうことがあります(=課税所得の増加)。
これを「償却の壁」と呼ぶこともあり、投資初期の節税効果とバランスをとって中長期的に戦略を練る必要があります。
2. 減価償却費の再計上はできない
一度計上しなかった年の減価償却費を、翌年以降に繰り越して計上することはできません。
その年のうちに忘れずに正しく計上しておく必要があります。
3. 売却時の譲渡所得課税に注意
建物を減価償却することで帳簿上の建物価格が減りますが、その分、売却益(譲渡所得)が増加します。
たとえば、以下のような例です:
- 建物購入価格:2,000万円
- 減価償却後の簿価:1,000万円
- 売却価格:2,000万円
この場合、譲渡益は1,000万円と見なされ、それに対して譲渡所得税が課税されます。
つまり、節税効果の“先送り”であり、最終的に税金として戻ってくる可能性があるという点も理解しておく必要があります。
第5章:節税効果を最大化するための実践テクニック
1. 中古物件で耐用年数を短縮して償却を加速する
前述したように、中古物件では「簡便法」を使って耐用年数を短縮し、数年で一気に償却できます。
これにより、取得後の数年で圧倒的な節税効果を得ることができます。
ただし短期での償却が終わると、先述の「償却の壁」が来るため、次の投資先や出口戦略を用意しておくことがポイントです。
2. 複数物件を時期をずらして購入し、減価償却を平準化
複数物件を数年に分けて購入することで、各物件の減価償却が時期をずらして始まります。
その結果、数年ごとの償却費が安定し、節税効果を平準化することが可能になります。
3. 確定申告で正しく計上し、税理士に相談する
減価償却費は確定申告で「必要経費」として正しく計上しなければ効果を発揮しません。
初めて不動産投資を行う方は、税理士と連携してミスなく処理するのがベストです。
- 耐用年数の設定ミス
- 土地・建物の按分比率の誤り
- 償却漏れや計上忘れ
これらのミスは節税どころか、あとで追徴課税の対象になる可能性すらあります。
最初から専門家と組むことが、最もコスパの良い選択ともいえます。
第6章:実例で学ぶ減価償却の使い方

ここからは、より実践的に「減価償却をどう活用すればいいのか?」を具体例とともに解説します。
ケース①:新築木造アパート(4,000万円)
- 土地:1,600万円
- 建物:2,400万円
- 構造:木造
- 法定耐用年数:22年
この場合、年間の減価償却費は以下のようになります:
2,400万円 ÷ 22年 = 約109万円/年
109万円を毎年経費にできるため、たとえば不動産収入が年間300万円ある場合、課税所得は約191万円になります。
この109万円にかかる税金(所得税+住民税 約20〜30%)が圧縮できるので、年間20〜30万円以上の節税効果が期待できます。
ケース②:中古RCマンション(6,000万円)
- 土地:2,000万円
- 建物:4,000万円
- 構造:鉄筋コンクリート(RC)
- 築年数:30年
RC構造の耐用年数は47年ですが、築30年の中古物件の場合、簡便法での耐用年数は次のようになります:
47年 ÷ 2 = 23年(切り捨て) ⇒ 22年
したがって、減価償却費は:
4,000万円 ÷ 22年 = 約181万円/年
新築に比べて年間償却額が高く、短期間で高い節税効果が得られるのがわかります。
節税効果の違いまとめ
| 項目 | 新築木造 | 中古RC |
|---|---|---|
| 建物価格 | 2,400万円 | 4,000万円 |
| 耐用年数 | 22年 | 22年(短縮) |
| 年間償却費 | 約109万円 | 約181万円 |
| 節税効果 | 中程度 | 高い |
このように、構造や築年数によっても節税インパクトは大きく変わります。
第7章:まとめ・よくある質問
減価償却のポイントまとめ
- 不動産投資における減価償却は、税金対策の柱になる
- 新築よりも中古物件の方が節税効果が高くなりやすい
- 土地には減価償却が適用されないため、建物割合が重要
- 節税メリットと売却時の課税リスク(譲渡所得)を両方理解すべき
- 確定申告では専門家(税理士)のサポートが非常に有効
よくある質問(FAQ)
Q. 減価償却をしないことは可能ですか?
可能です。ただし、しなかった分を翌年以降に繰り越して使うことはできません。
その年に正しく計上しないと節税効果を失うため、通常は毎年しっかり計上するのが推奨されます。
Q. 減価償却をすると売却時に損をする?
帳簿上の建物価格が下がるため、売却時に譲渡所得が増え、税金が高くなる可能性はあります。
ただし、トータルで見れば節税できているケースが多く、一概に損とは言えません。
Q. 減価償却と赤字は関係ありますか?
はい。減価償却費が大きければ、それによって帳簿上の赤字を生み出すことも可能です。
これを利用して給与所得などと損益通算し、税金を抑える戦略をとる人もいます(ただし制限あり)。
Q. 不動産所得が赤字だとローンに影響しますか?
ケースバイケースですが、金融機関は「キャッシュフロー」も重視するため、単純な赤字だけでは不利にはなりません。
むしろ、節税目的の赤字であることを理解してもらえるかがポイントです。
まとめ:減価償却を味方につけた不動産投資を
減価償却は、不動産投資における最強の武器のひとつです。
目先の利益にとらわれず、「いつ・どれだけ償却して、いつ売却するか?」までを見据えて活用しましょう。
正しい知識と戦略的な運用によって、あなたの資産形成に大きな差が生まれるはずです。
ぜひこの記事を参考に、減価償却を使いこなし、賢く節税・資産拡大を実現してください。
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