不動産投資を始めようと考えている方や、すでに物件を所有しているけれど利益がうまく実感できないという方にとって、「キャッシュフロー」という言葉は非常に重要です。
帳簿上は黒字なのに、なぜか手元にお金が残らない――そんな経験をしたことがある方もいるのではないでしょうか。
それは、収益とキャッシュフローの違いを理解していないことが原因かもしれません。
この記事では、初心者にもわかりやすく、キャッシュフローの基本的な意味、収益との違い、そして実際の計算方法や改善ポイントについて、図解イメージや具体例を交えながら丁寧に解説していきます。
キャッシュフローとは?
キャッシュフロー(Cash Flow)とは、簡単に言えば「現金の流れ」のことです。お金が入ってきて(収入)、お金が出ていく(支出)という流れを数値化したものがキャッシュフローです。
不動産投資においては、「物件から得られる家賃収入」から「運営・維持にかかるコスト」を差し引いた実際の利益がキャッシュフローとなります。
■ 正味キャッシュフロー(Net Cash Flow)
不動産投資の分野では、以下のような式で表されます:
キャッシュフロー = 家賃収入 -(ローン返済 + 固定資産税 + 管理費 + 修繕積立 + 空室損 など)
この金額がプラスであれば黒字であり、投資としては「成功している」と言える状態です。
逆にマイナスであれば、毎月の持ち出しが発生していることになります。
収益との違いとは?
よく混同されがちなのが「収益」と「キャッシュフロー」です。
帳簿上での「収益」は、あくまで「売上―経費」などの会計上の利益であり、手元に現金として残るかどうかとは別です。
例えば以下のようなケースを考えてみましょう。
【ケース】
・家賃収入:100,000円/月
・固定資産税:年額120,000円(毎年12月払い)
・修繕積立金:月額10,000円
・ローン返済:月額60,000円
このとき、帳簿上の収益は毎月 30,000円(100,000円-60,000円-10,000円)ですが、12月には固定資産税がドンと12万円かかるため、キャッシュフローが一時的に大きくマイナスになることがあります。
つまり、「収益は黒字」でも「キャッシュフローは赤字」になることがあるのです。
この違いを理解しておくことで、安定した投資判断ができるようになります。
キャッシュフローの種類
キャッシュフローは、企業の財務や投資判断などでも使われる用語で、目的ごとに以下の3種類に分類されます。
- 営業キャッシュフロー(Operating Cash Flow)
事業活動から得られるキャッシュの流れ。不動産賃貸業でいえば「家賃収入-運営経費」が該当します。 - 投資キャッシュフロー(Investing Cash Flow)
不動産の購入・売却、修繕・設備投資など、将来の収益に結びつく支出や収入が該当します。 - 財務キャッシュフロー(Financing Cash Flow)
ローンの借入や返済など、資金調達や返済活動に関する現金の動きです。
不動産投資において注目すべきは「営業キャッシュフロー」です。日々の運用でどれだけ現金が残るかが、収益性や投資判断の大きな指標になります。
キャッシュフローの計算方法

ここでは、実際にキャッシュフローをどのように計算するのかをステップ形式で解説します。
ステップ①:家賃収入を算出する
まずは、物件の総家賃収入(月額 or 年額)を算出します。
例)月8万円の家賃 × 12ヶ月 = 年間960,000円
ステップ②:運営費を算出する
次に、物件にかかる運営費を洗い出します。代表的なものには以下があります:
- 管理費(管理会社への手数料)
- 修繕積立金・維持費
- 火災保険料
- 固定資産税・都市計画税
- 仲介手数料(入退去時)
- 広告料(AD費)
- 空室損(空室期間を考慮した収入減)
年間でこれらを合計し、家賃収入から差し引きます。
ステップ③:ローン返済額を引く
融資を受けている場合は、元金と利息を含む返済額を年間で算出し、収入から引きます。
ステップ④:キャッシュフローを算出
以下の式で求められます:
年間キャッシュフロー = 家賃収入 -(運営費+ローン返済)
この金額がプラスなら黒字、マイナスなら持ち出しが発生している状態です。
※ 実際のシミュレーションでは、税引後の利益や減価償却費なども含めた計算が必要な場合もありますが、まずは上記の計算式でおおまかな実力が見えてきます。
キャッシュフローが悪化する原因とは?
キャッシュフローがプラスであることは、不動産投資を続けるうえで非常に重要です。では、どんなときに悪化するのでしょうか?代表的な要因を5つ紹介します。
- 空室期間の増加
想定よりも長く空室が続くと、収入がゼロになるためキャッシュフローが大きく悪化します。入居者が決まらないリスクは常に念頭に置いておく必要があります。 - 家賃下落
地域の需要低下や競合物件の増加により、家賃を下げざるを得なくなると、収入が減りキャッシュフローも悪化します。 - 運営コストの増加
設備の老朽化による修繕費の増大や、保険料・管理費の値上がりなどで支出が増えると、手元に残るお金が減っていきます。 - ローン返済額の上昇(変動金利)
変動金利で融資を受けている場合、金利が上昇すると返済額が増え、キャッシュフローを圧迫します。 - 突発的な出費(退去費用・リフォーム費用など)
入居者退去時の修繕費や原状回復費用が想定より高くなると、一時的に大きな支出が発生します。
これらのリスクは、すべての不動産投資家に共通するものです。だからこそ、事前の対策やシミュレーションが不可欠なのです。
キャッシュフローを改善する5つの方法
では、キャッシュフローを良くするためにどのような対策があるのでしょうか?以下のような改善策が挙げられます。
- 空室対策を徹底する
募集時期をずらさない、家賃設定を見直す、室内の清潔感を保つなど、空室を防ぐための施策を実行しましょう。 - 管理費・経費の見直し
管理会社との契約条件や、保険の見直し、無駄な経費の削減で支出を抑えることができます。 - 高稼働エリア・物件の選定
賃貸需要が安定しているエリアや、リフォーム済みで魅力ある物件を選ぶことで、入居率を維持しやすくなります。 - 固定金利ローンを選ぶ
変動金利よりも返済計画が立てやすいため、安定したキャッシュフローを見込めます。 - 長期的な修繕計画を立てておく
建物の老朽化に伴う出費を見越して積立しておけば、急な大規模出費を避けられます。
キャッシュフローの改善は一朝一夕にはいきませんが、これらを意識することで手元に残るお金をしっかり増やしていくことができます。
なぜキャッシュフローが重要なのか?

キャッシュフローがなぜこれほどまでに重要視されるのでしょうか?その理由は、単に「手元にお金が残るから」というだけではありません。
- 継続的な投資の原資になる
手元にお金が残れば、次の物件購入資金や修繕資金として再投資できます。資産形成を加速するうえで極めて重要です。 - 突発的な支出への対応力が高まる
入居者退去時の修繕費や税金、災害など、不動産投資では予期せぬ出費がつきものです。キャッシュフローがあれば慌てずに対応できます。 - 生活費に充てられる(副収入化)
キャッシュフローは不動産からの“収入”です。本業の収入とは別に、毎月のお金の余裕が生まれ、生活の質が向上します。 - 融資審査に有利になる
金融機関は次の融資の際に、キャッシュフローを重視します。プラスが大きいほど、信用度が高くなりやすいのです。 - 事業継続性の根幹をなす
マイナスのキャッシュフローが続くと、借入の返済や管理費の支払いが困難になり、最悪の場合は破綻に至る可能性もあります。
キャッシュフローをしっかり確保することは、資産形成だけでなく、不動産投資を“長く続ける”ための生命線とも言えるのです。
よくある誤解と注意点
初心者の方がキャッシュフローについて持ちやすい誤解と、それに関する注意点を整理しておきましょう。
■ 誤解1:収益が高ければキャッシュフローも多い
収益が高くても、支出も多ければ手元に残るお金は少なくなります。例えば、家賃が高い一等地物件でも、修繕費や管理費が高ければキャッシュフローは悪化する可能性があります。
■ 誤解2:キャッシュフローが多ければ絶対に成功
キャッシュフローが一時的にプラスでも、将来的な修繕費や空室リスクを考慮していないと、いずれ赤字転落することも。表面的な数値だけで判断するのは危険です。
■ 誤解3:節税のために赤字でもOK
赤字でも減価償却などで「節税になるからOK」という考えは要注意。節税はキャッシュインではないため、現金が残らなければ苦しくなります。
■ 誤解4:返済期間は短いほうが良い
短期間で返すと総利息は減りますが、月々の返済額が増えてキャッシュフローが圧迫されます。余裕ある返済期間の方が安全な場合もあります。
キャッシュフローを正しく理解するには、数値だけでなく「なぜそれが重要か」「どう管理すべきか」という視点が欠かせません。
キャッシュフロー管理に役立つツール・考え方
キャッシュフローは「数字を見える化」することで、初めて改善できます。ここでは、投資家が実際に使っている管理方法やツールをご紹介します。
■ ExcelやGoogleスプレッドシート
多くの投資家が使っている定番ツール。物件ごとに収支シートを作り、毎月の家賃収入・支出・ローン返済などを入力して管理できます。
- テンプレートを使えば初心者でも簡単
- 複数物件を一括管理できる
- グラフ化すれば推移も見やすい
■ 会計ソフト(freee/マネーフォワード等)
確定申告まで見据えるなら、クラウド会計ソフトもおすすめ。銀行口座やクレカとの連携で自動記帳が可能になり、手間を減らせます。
■ キャッシュフロー表の活用
将来の資産形成まで含めて考える場合は、長期シミュレーション表(キャッシュフロー表)を作っておくと、5年後・10年後の見通しが立てやすくなります。
「管理する習慣」が投資の安定性に直結します。定期的な見直しを行うクセをつけましょう。
まとめ|キャッシュフローは不動産投資の心臓部

ここまで、キャッシュフローの基礎から、収益との違い、計算方法、管理のポイントまで幅広く解説してきました。
■ 本記事の要点
- キャッシュフローとは「毎月実際に残るお金」のこと
- 収益(表面利回り)とは違い、手元に残る現金の流れを示す
- 収支計算には「ローン返済」「管理費」「税金」などを含める必要がある
- キャッシュフローがプラスなら安心とは限らず、将来の支出にも備える必要がある
- 管理ツールを活用し、数値を見える化することが成功のカギ
■ 初心者こそキャッシュフローを重視しよう
不動産投資は「物件の見た目」や「利回りの数字」にばかり目が行きがちですが、最も大切なのは「どれだけお金が残るか」という現実です。
月1万円でもプラスのキャッシュフローを積み上げていけば、やがて大きな資産になります。逆に、毎月赤字を放置すれば、いずれ投資は続けられません。
数字と向き合い、冷静に判断し、コツコツと改善する。地味かもしれませんが、それがキャッシュフローを制するための王道です。
この記事が、あなたの資産形成の一助になれば幸いです。
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